わたしたちは 繋がっている
《1》



…だからね。
そうそう、今日のお弁当は、かなりがんばったんだよ☆
また、感想聞きたいな って無理かなあ。
では おやすみなさい。


「… 蘭世っと。 送信」
送信ボタンを押して、蘭世は携帯の画面を見つめる。思いの幾許かを詰めたメールが画面の…そして二人の距離を超えて伝わって行く。そう、この瞬間、蘭世の送ったメールは俊の携帯に届いているはず。
「はずなのに、ね」
携帯を閉じると、蘭世は溜め息混じりに呟いて、携帯をわざとすぐ手に取れないところに置いた。本当なら目に付かないところに置きたいところだか、そこまでの踏ん切りはまだ無い。








 この春。
 蘭世と俊はめでたく高校を卒業した。
 3年になってボクシングに力を入れ始めた俊にとって、“高校卒業”という節目は特にこだわるものではなかった。それでも、中途半端に終わった中学生活のことを思った俊はぎりぎりの単位ではあったが卒業することを選んだ。
 そして現在。本格的にプロを目指して練習に取り組んでいた。
 一方の蘭世は。
 俊と共にいたいという思いだけで始めた高校生生活だったが、ゾーン事件の終結以降魔界の騒動に巻き込まれることもなくなり、学生生活を楽しむこととなった。
 生来明るく人付き合いの良い蘭世は友人に恵まれ、充実した学生生活を送っていた。
 そして春。
 いろいろと悩んだ蘭世だったが、結局聖ポーリア学園に所属する短大へと進学することとなった。



 そして、3ヶ月が過ぎた。



 流行りのラブソングを模した電子音が響く。
 短大のカフェテリア。ランチをとっていた少女がふっと表情を緩め、同席している友人たちに断りを言ってからメールを開く。
「彼から?」
 蘭世は彼女に尋ねる。うん…と頷き、彼女は急いでメールの内容を確認する。その表情が華やいだことを蘭世は一目で見て…知る。
「どうしたの、嬉しそうじゃない」
言ったのは、もうひとりの同席者。蘭世と2人、顔を見合わせて……微笑みあった。
 “親友”と呼べる存在であった曜子は他大学へ進学しており、いつも姿を追っていた俊の姿もなく、当初は時間をもてあまし気味の蘭世だった。
 そんな彼女の大切な友人…それが外部入学者であるこの2人であった。ひょんなことから入学式に知り合い…以来気が合って親交が続いている。
「何か、とってもいいメールが来たの?」
「ん、今日バイトが休みになったから夕食を一緒に食べよって、彼が」
 言って彼女は、あ、という表情をして蘭世を見る。今日は2人でバーゲンを見に行こうと、前々から蘭世を誘っていたのは彼女のほうだったから。
「いいよ。久しぶりでしょ、彼と会うの。わたしは絶対欲しいって物ないし…しっかり楽しんできて」
と、こういう状況でいえる言葉はひとつしかなく。
 蘭世は笑顔を作って、彼女にそう言った。



 文句を言うつもりはないけれど。
 蘭世はふとそう思う。
 今日の予定が流れたのは…確かに彼女のわがまま、かも知れないけれど。でも、蘭世は彼女に苦情を言うつもりはない。
 それでも、突然ぽっかりと予定が空いてしまった午後は、確かに手持ち無沙汰なもので。蘭世はため息ひとつ。テーブルにおいていたバッグを手にする。こんな日に限って、講義は休講。
「つまんない…の」
 ため息ひとつついて。
「帰ろ」
 誰に言うでもなく呟いて帰途につく。本当に言いたい言葉は……胸の中に押し込んで。











inserted by FC2 system