帰り道


「なるみちゃん?」
 鈴世君のうちからの帰り道。
 小学生の女の子が歩くには、少し暗くなった道で。
 わたしはばったり欄世お姉ちゃんと出会った。
「どうしたの、こんなところで」
 いつものように笑顔でそう聞いてくれるお姉ちゃんに、わたしは、鈴世君の宿題のノートを間違えて持って帰っていたこと、それを届けにきたことを話した。ちなみに、鈴世君は児童会の仕事・・・とやらで、まだ帰ってきていない。
「明日でもよかったのに」
「でも、お姉ちゃん、これ、宿題・・・」
「鈴世なら、朝のうちにちゃっちゃっとやっちゃうでしょ」
というお姉ちゃんの手には・・・鞄と一緒になぜかスーパーの袋が二つ。ジャガイモやら人参やらキャベツやらが入ったその袋は、学校帰りの女子高生のイメージからはほど遠い。
 考えてみると、お姉ちゃんと会ったこの場所は、学校からもお姉ちゃんのおうちからも方向違い。そんな事実に、ちょっぴり好奇心が働く。
「とにかく、なるみちゃん。一人じゃあ危ないんだから」
送っていてあげたいんだけど・・・と、なにやらぶつぶつ言うお姉ちゃんと、一人でも平気と押し問答すること数分間。
 結局、
「とにかく、ちょっとだけこっちにきて」
というお姉ちゃんの言葉に従って、わたしはすぐ先の角を曲がることになった。




 いつも通る道から一本入った、知らない道。人通りの少ないその先には、かなり古いアパートが建っていた。
「ごめんね、遠回りさせちゃうけど」
とお姉ちゃん、かなりなれた足取りで、外階段を上がる。
 お姉ちゃんと一緒じゃなかったら・・・はっきり言って危ない雰囲気だよなぁなんて思っているわたしの目の前で、お姉ちゃんはとあるドアを軽くノックした。
「え、お姉ちゃん?」
「何だよ、遅かったな」
 何事!?と、目を白黒差せるわたしの目の前でドアが開き・・・顔を出したのは何度か会ったことのあるお姉ちゃんの彼氏さんだった。
「ごめんね。なるみちゃんをそこで拾っちゃったから」
「拾ったっておまえ、ものじゃないんだから」
 そんな風に話しながら。
 お姉ちゃんは自然にその部屋へと足を進める。彼氏さんも自然にそれを受け入れ、わたしの方をみて「入るか?」と目で聞いた。
 戸惑っているわたしに、お姉ちゃんは笑顔で入るようにわたしを誘ったので、わたしも彼氏さんに軽くお辞儀をして、玄関の中に足を踏み入れた。
「・・・から、小学生の女の子を一人で帰すのも危ないかなあって思って・・・」
「だからって、ここへつれてきたらもっと遅くなるんじゃねえのか?」
「あ、そうでした」
 小さな台所にスーパーの袋から出したものをなれた調子で片づけていくお姉ちゃんと、そんなおねえちゃんの言葉にため息をつく彼氏さん。
 なんだか、そんな二人の様子がとっても自然に、それでいて、なんだかドキドキするほどすてきなものに感じられた。
「で、どっちの方?」
 一通りお姉ちゃんの話を聞き終えて。
 スニーカーを履きながら、彼氏さんはわたしにそう尋ねる。
「え?」
「おまえのうち。送っていくから」
「あ、あの・・・」
「なるみちゃん、ごめんね、真壁君に送ってもらってくれる? その間に夕ご飯、作っておくから」
「あ、はい」
「じゃ、真壁君、お願いね」
 なにがなんだかよくわからないうちに、わたしは彼氏さんと二人、家路へとつく。
「お姉ちゃん、よく行ってるんですか?」
「あ、部活もなかったし、今日はたまたま…かな」
 彼氏さんはそう言ったけど・・・本当は違うんだろうなってわたしは思う。
 だって、あの小さい台所の隅に。
 お揃いのカップとお茶碗がちゃんと片づけてあるのを、わたしは見たのだから。






 そんな話を鈴世君としたのは、それからしばらくたってからのことになる。



 これも、少し前に書いていたお話です(ようやく、日の目を見たというかなんというか…)。
 ちょうどこのお話を書いていた頃っていうのが、蘭世と俊のお話をそのまま書く、というより、はたから見た2人を書くほうがピンと来ていたころだったように記憶しています。お互いが大切なことはわかっていて、その思いが周りも幸せにしていくっていうか…周りへも影響していく。そんなことを考えて書いていたように思います。
 書き終えると、俊君を尻にひいている肝っ玉蘭世ちゃんになってしまった感は否めませんが…。




 
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