卒業の日


3月10日
今日は聖ポーリア学園、つまり私たちの卒業式だった。
今日で制服を着るのも最後かと思うと、
なんだかちょっと寂しい気がした。
登校前に、お父さんとお母さんが
「記念写真を撮ろう」と言ったんだけど、
ちょっと照れくさい。
友達と撮るのは平気なんだけどなあ






「おはよう」 
 教室に入って私はそうクラスメイトに声をかける。いつもは重いかばんを提げているんだけど、今日はみんな身軽だ。
「なんか、今日は教室が狭くない?」
隣の席の子が、私に声をかける。
「そうかな?」
と答えて、私たちははっと思いつく。3学期になって、3年生は自由登校になっていた。受験に行って登校しないクラスメイトも多かったのだ。登校していたのは、私のように進学しないものか彼女のように推薦で進学先が決まっていたものだけだったのだ。





今日は、真壁君も久しぶりに登校していた。
隣のクラスに真壁君の制服姿を見てドキッとしちゃった。
見慣れてたはずなのに・・・。
ほれなおしちゃうのは、
やっぱり真壁君がかっこいいからかな?






 真壁君はすでに、卒業したら所属するジムのほうへ毎日行って練習を始めていたので最近は登校していなかった。ジムのオーナーもコーチも、真壁君のことをとってもかってくれていると聞いていた。
「おっす」
 朝会の前に。廊下で真壁君とすれ違う。窓から校庭の方を見ていた真壁君。その視線の向こうには,ボクシング部のグ室があった。
「おはよ、真壁君」
そんなふうな彼に、それっきりしか言葉をかけられなくて、私は伝えられない言葉のぶんだけにっこりと笑う。そんな私に、彼もいつもの笑顔を返してくれた。
「痛い。・・・もう真壁君ってば」
 サイドだけ上げてリボンで結んでいた髪。その結んだ髪を軽く引っ張られ、私は彼に抗議の声をあげた。
「リボン、ほどけてるみたいだぞ」
「えっ、うそ。どうしよう」
 振り向こうとする私の頭を軽く押さえ、真壁君の指がリボンを結んだ。彼の指が髪に触れるたび、なんだかとってもどきどきした。





式には、お父さんとお母さんが来てくれていた。
真壁君のお母さんも来て下さっていた。
おば様の姿を見て真壁君はびっくりして、
そして照れていたようだった。
おば様の話によると、
アロンたちも来たがったそうだけど、
みんなに姿を見せたらなんだかややっこしいことになりそうなので、
今回は遠慮したのだそうだ。
確かに”マカイ国”の王子が突然現れたら
みんな驚くだろうな・・・と思う。
それはそれでおもしろいようにも思えるけど。
少なくとも、神谷さんは違和感を感じないだろう。





 卒業式は、厳粛に行われた。まわりの女の子たちはみんな泣いていた。私も・・・涙が出た。いろいろな思い出がよぎってきたのだ。
 こんなに悲しいものだろうかと思って気がついた。
 私、学校を卒業するって初めてだった。
 改めて気づいたそのことが、悲しいような嬉しいような思いに包まれて、なんだかそんな気持ちを持っている自分が不思議だった。



「この泣き虫」
 式を終えた後、簡単なホームルームも済ませ、私たち卒業生はいよいよ校庭に出る。聖ポーリア学園の伝統の行事。在校生全員に見送られて旅立つ、『巣立ち』の行事が始まる。
 涙でぐちゃぐちゃの私の顔を見て、真壁君は一言言い放つ。意地悪な口調は、真壁君のいつもの照れ隠しってことを、私はよく知っている。なぜって、口ではそう言いながら、彼の指はそっと涙を拭ってくれていたから。
「卒業生が、今、巣立ちます。これからの皆さんの人生が、幸多いものとなり・・・」
生徒会長の挨拶が放送で流れ、在校生の作ったアーチの下を私たちは歩き出す。真壁君がわたしの肩をそっと押す。私は彼に並んで歩き出した。
「ちょっと蘭世。俊に近づきすぎよ」
 神谷さんがそういって、私と反対の側に立つ。こんなふうに3人で歩くのも、今日が最後。
「よう、真壁。あいかわらずだな」
 門の向こうに、日野君とゆりえさんの姿があった。






式の後。
ボクシング部のみんながお祝い会をしてくれた。
日野君やゆりえさんも参加して、
とってもにぎやかな会になった。
みんなからのプレゼントと言葉に、
神谷さんが感激して私以上に泣いてしまって、
みんなを驚かせていた。
明日から、真壁君は本格的に練習開始だそうだ。
こっそりお弁当を持って彼の部屋に行こうかな。
真壁君は驚くだろうなと思う。
今日はこれから、料理の本をしっかりと読んで
メニューを考えなくっちゃ。






 帰り道。
 遅くなったので、真壁君が送ってくれた。いつものように言葉が出てこなくて、ただ黙々と足だけを動かす。
 どこまでも続く路。
 これからも、いっしょに歩いていけるかな・・・・・・。そんなことを思って、横目でチラッと彼の表情を見る。伝わったかな?ちょっと赤い顔の彼。
 真壁君は、軽く私の手を握る。
 答えだと思って・・・いいよね。そんなふうに思う。
 これからもいっしょに歩いていきたい。これが私の夢。小さな、でも永遠に続く、私の大切な夢・・・・・・。

 今から3年位前に書いた作品です。2人の進路とかいろいろ妄想していたのですが、どれもなかなかすっきり来なくて結局こういう形になりました。
今回アップするに当たって少し手を入れましたが、当時の思いを大切にしたくてあえて大幅な書き直しはしませんでした。今読むと、まだまだ不十分なところも多いのですが(といって、今それほど進歩したかというと・・・)、それでも読み直していて、なんだかほっとするような作品だなあと自画自賛しています。


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