BIRTHDAY PRESENT | |
もうすぐ7月27日。別に特別な日と言うわけじゃない。ただ、“あいつ”の誕生日だって言うだけだ。 別にたいしたことじゃない…と思う。お互いに“お誕生日を祝う”なんて、そんな甘ったれた関係でもなかった。 あいつの誕生日。知らなかったわけじゃない。でも知り合った当初はあいつは完全にライバルでそんなの祝おうだなんて思っても見なかったし、祝ってもいいかなって思うようになったときにはにっこり笑って「おめでとう」なんて言えるようなそんな状況ではなかったから。結局、わたしが1人で空回りしていただけのような気がしないでもないんだけど…そんなの今になって思えばってことだけで。 でも…。 今年くらいはお祝いをしてやろうかな。“あの日”2人を祝福したように、あいつに笑って「誕生日おめでとう」って言ったら、わたしはあいつともっといい付き合いが出来るような気がする。 この神谷曜子さんが、唯一“ライバル”と認めた女、江藤蘭世と。 |
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コンコン。 例によって窓ガラスを叩く音。時計はそろそろ10時を過ぎる。今夜は…やっぱりお月様が出ている。ってことは、きっとあの“鈴世君”。 「なるみ、入るよ」 この間、思いっきり怒ってから。無断進入することはなくなった“軟派鈴世君”だけど、「いいよ」とも「ダメ」とも言う前に入ってくるのは変わらない。 「な、何の用? こんな時間に?」 ついつい引いてしまうのは条件反射というもの。こっちの鈴世君も鈴世君には違いないんだけど、いつまでたってもなれないのは仕方ない。 「なるみに相談があるんだ」 と言う鈴世君。軟派な彼には違いないんだけど、それでも今日はちょっと真剣な感じ。だからつい「何?」って聞いてしまう。と、グイッと突き出される紙袋。その中には…かわいい、でもちょっとアンティークがかったバレッタが2つ入っていた。 「これ…何?」 「実はさ、27日、姉さんの誕生日なんだ。で、どっちがいいかなるみに選んでもらおうと思って」 「蘭世お姉ちゃんの?」 あたし、そういってもう1度鈴世君の差し出したバレッタを見比べる。両方とも光沢のある木で出来ている。片方はビーズのモチーフの付いているもの。水色がメインになったそれは光の当たり方によってきらきら光って見える。もうひとつはトールペイントって言うのかな、花と緑のアレンジメントがきれいに描かれているもの。 「…お姉ちゃんだったら、やっぱりこっちかな?」 とあたし、トールペイントのほうを選ぶ。 「やっぱりそっか。じゃ、こっちはなるみに」 と鈴世君、あたしにビーズのほうを差し出して、すっと消えていってしまった。 「お姉ちゃんの誕生日…か」 あたしもお姉ちゃんにお祝いしようかな。ふとそう思いつく。いつもの鈴世君になったら相談しよう…そう思った。 |
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そろそろあいつの誕生日らしい。 ふとそう思いついたのは、7月も半ば過ぎたころだった。 今年…と言わずおれの誕生日にはいつも大騒ぎして祝ってくれるあいつ。こちらとて、忘れているわけではないのだが…ついつい日常にとりまぎれてなんとなく過ごしてしまっていた。もちろん祝ってないつもりはない。ただ…どうも照れくさくてたまらないのだ、改めて「誕生日おめでとう」なんて。 とはいえ…。おれは思う。 結婚して初めての誕生日。無視…するつもりはさらさらないが、いつものように何気なく相手をしたら・・・意外なところで落ち込むかもしれないなと思う。それこそ蘭世は、変なとこ変なふうに突っ走ってしまうやつだから。 じゃあ、どうしたらいいのかなんてすぐに思いつくほどおれは器用ではない。昔からわかっていたことだが、こうしていざ何か贈ろうとすると何がいいのかわからない。ウインドウショッピングなんて柄でもないことをして何日か過ごし…結局あいつの誕生日になってしまった。 今日こそは、何か準備しなくてはいけない。そう思う。そうは思うのだが、気ばかりあせっていいアイディアが浮かばない。 一体全体どうしたらいいんだと、溜息をひとつついて…顔を上げた時1件の店の灯りが目に入った。 |
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今日はわたしの誕生日。 結婚する前は、それなりにお母さんたちがご馳走を作ってくれていた。でも…。夕食を作ろうとキッチンに立って、わたしはちょっと考える。今日の夕食…どうしよう。 彼の誕生日は、結婚してすぐだったからちょっと照れくさかったけど、それでも頑張ってお料理したんだよね。「おっ、サンキュー」なんて、彼もいつもはなかなか言ってくれないような言葉をくれて、2人で賑やかにお祝いした。でも…、今日はわたしの誕生日。自分でご馳走作るのも、なんだか「お祝いして」って言うようで気が引ける。大体…今日わたしの誕生日だなんて彼が覚えていてくれてるかどうかもわからないんだし…。帰ってきて「今日何の日だっけ?」なんて聞かれるのも…寂しい。 だから 「まあ、いいか。いつものようで」 そして、夕方。チャイムが鳴った。 「お姉ちゃん、お誕生日おめでとう」 「なるみちゃん、鈴世!」 なるみちゃんの手には小さなかわいいフラワーアレンジメント。鈴世も笑って小さな紙袋を渡してくれる。中にはちょっと古風なバレッタ。わたしは笑って花を飾り、鈴世のくれたバレッタを髪につけた。。 リビングで、お茶を飲みながら話をしていると、再びチャイムが鳴る。 「お兄ちゃんかな?」 なんていう鈴世を置いて、わたしはドアを開ける。とそこには…神谷さん。 「これ、あんたに」 いつものように喋りたおしながら上がってくる神谷さん。グイッと差し出されたのは…ケーキの箱。 「あんたの手作りのケーキなんかよりずっとおいしいはずだから…。お茶くらい入れてくれるわよね」 「ん」 コーヒーを入れながらケーキの箱を開ける。とそこには「HAPPY BIRTHDAY」の言葉。 「ケーキは俊が帰ってきてからよ」 と言う神谷さんの言葉に、わたしは笑って返事をした。 夕食はとっても賑やかだった。 神谷さんと鈴世、なるみちゃんにも加わってもらっての大騒ぎだった。メニューはいつもとそう大差がないものだったけど(突然だったので、ちょっとみんなに手伝ってもらったのも楽しかったし)、たくさんの人がそこにいるってだけで気分があんなに華やかになるなんて思わなかったから。 そして。 「今日はお疲れさん」 みんなが帰ってから2人きりになったリビングで。俊はわたしにそう言った。 「ごめんね。大騒ぎで。びっくりしたでしょ?」 「まあな。でもいいんじゃないか、久しぶりで」 「そうね。うちじゃあああやってたくさんの人がいるのって普通だったし」 「おれも居候してたしなあ…」 そんなこともあったわね…と笑って、俊がわたしに手渡してくれたのは1通の封筒。手にとって開けてみると…それは見たいって思っていた映画のチケットだった。 「あなた?」 「明日、ジムへ行く前に…な」 「ホント?」 まあたまにはな、と笑う俊にわたしは笑顔で抱きついた。“我が家”のリビングで。2人ソファに腰掛けて。 「おめでとう、蘭世」 耳元でそっと囁いて、俊はわたしにKISSしてくれた。 |
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7月27日は蘭世ちゃんのお誕生日・・・だそうです。で、ちょっと遅くなったけど蘭世ちゃんのお誕生日話を書いてみました。 |
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